「わかるとはどういうことか」(割り算の話)

 

 「分かる」ということは,人によっても異なるだろうし,同じ人でも問題によって異なることがある.

 

 私が院生の頃,ゼミで商空間の話を聞く機会があった.それまではよくわかっていなかったのだけれど,その時の発表を聞いて「わかった」という感覚を得た.その時の話を大まかに説明しようと思う.

 

 まず,割り算の意味について幾つか考えてみる;

 

1.分割

(例1):6つのりんごを3人で分けるとき,いくつずつ分けることになるか.

 

 6÷3=2    答え:2個ずつ

 

2.比(一つあたりの量)

 

 (例1)の計算に単位をつけて

 6(個)÷3(人) = 2(個/人) 答え:一人当たり2個ずつ

 

3.同一視

(例2)  果物が全部で6こあります.この中にみかんとりんごが同じ数含まれています.みかんとりんごをそれぞれ別々の袋に分けて入れたとき,袋はいくつ必要でしょうか.

6÷3=2  答え:2袋

 

 つまり,”個数”ではなく,同じ性質を持つもの(今の場合はみかんはみかん,りんごはりんごとしての性質を持つ)はまとめて1つとみなして(同一視して)数えるという意味である.

 

 商空間の場合には3つ目の同一視という意味をもって”空間”をある規則で同一視したものとして定義されるという説明だった.割り算の意味について,”分割”,”一つあたりの量”に加えて”同一視”の意味を知っていると商空間の意味を理解することはそれほど難しいことではない.

 

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情報と民主主義(数学以外の話)

 

 裁判においては,検察は徹底的に被疑者にとって不利な証拠を揃え,罪状を確定し,遺族の処罰感情や社会的制裁いも含めてより重い刑罰を下すようにと訴える.

 弁護士は,徹底的に被疑者にとって有利な情報を揃え,検察の証拠を覆そうとする,あるいは罪状を認めた上で情状酌量を訴え,刑罰を軽くするようにと訴える.

 それぞれが「有罪 or 無罪」の天秤の両端にどんどんと重りを乗せていくイメージである.その天秤の釣り合いを観察するのが裁判官(あるいは裁判員)の役目であり,そのバランスを注意深く判断して,判決(=罪状と刑罰)を決める.

 

 

 議会制民主主義においては,行政府はその行政府が目指す国家のかたちを実現するために政策を訴え,それに賛同する政党や議員に投票するように有権者投票権を持つ者)に訴える.もちろん,そのために自分たちに有利な情報を有権者に向けて公表する.

 これに対抗するのはマスメディアであった(過去形).行政側(行政権を持つ者)が公表する情報や,国家運営のロジックに対して徹底的に批判的な立場をとる.時には行政が決して公表しない不利な情報:権力の濫用や賄賂といった犯罪を暴く.

 この場合は,行政とマスメディアがそれぞれ天秤の両側にどんどんと重りを積み上げていくイメージである(あるいは行政が斯くあるべきと考える国家のあり方に向かってアクセルを踏み,マスメディアがブレーキをかけるイメージ).

 その天秤(あるいはアクセルとブレーキ)の釣り合いを見て,有権者は(各自の信条に基づいて)バランスが取れていると思う政策を訴える政党や議員に投票する.

 

 ここで前提となるのは,マスメディアによる批判はもちろんだが,行政が公表した情報が正確に伝えられていることである.一部を切り取ったり,特に片方の側にとって不利になる映像だけを繰り返し放送するような行為は,一方の重りだけがどんどんと積み上がっているかのように有権者を錯覚させる.裁判で言えば,検察側,あるいは弁護側の一方だけの意見を聞いて判決を導くようなもので,とても公平とは言えない.

 

  現在はというと,マスメディアの”報道しない”という権力の濫用に対して,インターネットが歯止めをかけている状況にある.こうした状況を”ポピュリズム”だとか”民主主義って??”と訝しがる論説を一部では目にするが,そうではない.

 むしろ,行政側の公表した情報も,マスメディアの行政への批判的視座も,その両方を(インターネットによって)有権者が正しく知ることができる環境が整った,すなわち,民主主義が正しく機能する前提条件が整ったというのが正しい.

 実際,マスメディア側からの情報は,テレビでもラジオでもインターネットでも見られるし,行政側の主張は,内閣府やそれを支える与党の公式発表及び公式見解を(やはりインターネットで)見ることができる.

 こうした現状では,いかなる嘘や印象操作(発言の切り貼り,報道しない自由,発言の揚げ足とり,レッテル貼り,etc...)も意味がない.そんなことよりも,すべての情報をつまびらかにした上で,それらと科学的根拠とに基づき,「自分(たち)の主張が正しい」ということを論理的に訴えることができる者が有利である.

 そのためには  - 論理のなんたるかを身につけるには, 数学を学ぶのがよい.だから数学を勉強しよう.

 

 

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「わかる」という感覚

 

 数学をやっているとつい考えてしまうのが「分かる」とはどういうことかということである.定義でも定理でも良いがその”意味がわかる”という感覚は少しでも数学を学んだ人なら感じたことがあるだろう.

 最近,その感じ方が人によって違うのではないかと思うようになった.例えば,

 

 ・ 論理的に正しいことが示された時にわかったと感じる

 ・ 幾何的に図やグラフに書くことで,状況を把握することができ,わかったと感じる

 ・ 計算の結果が正しいと確認できた時にわかったと感じる

 

など,どのような時に「わかる」という感覚を感じるかは人それぞれ違うのだろうし,同じ人でも考えている対象や分野によって異なる「わかった」を感じるのだろうと思う.

 

 数学の教師は,自分がどのように理解したか(=何をもって「わかった」か)を拠り所にして説明をする.したがって,その教師の思う「わかった」という感覚と聞いている側の「わかった」という感覚が遠いと,いくら説明を聞いてもわからないということが起こる.

 そのような時は,一度教師の説明を頭から追い出して,自分で一から教科書を読んで考えてみるのが良い.

 多少労力と時間を要するが,図を描いてみたり,具体的な問題(練習問題)を解いてみたり,いろいろと自分なりの「わかった」という感覚が得られるまで試行錯誤が必要である.

 わかるまでの時間は辛いが,わかった時の喜びは一入である.

 

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「このブログについて」(今更ですが...)

 数学に関することで,思ったことや勉強のヒントになりそうなことを書くブログです.私の知識と時間と労力の許す範囲で更新します.

 勉強については,数学が得意な人やできる人ではなく,苦手だけどなんとかしたいと思っている人や,何が面白いのかわからない人向けに書くつもりです.

 片手間で書いているので,お約束は出来ませんが,数学に関する質問をコメントに残してもらえれば,(私の知識の及ぶ範囲であれば)記事を書くかも知れません.

 前にベクトルについて2つ記事を書きましたが,それらは「ベクトルって何????」という人向けに書いたつもりです(「ベクトルって何ですか??」と質問されればあのような記事になる).

 ただし,教科書や参考書,その他練習問題問題の解説や解答は返信しません.

 質問の内容としては,どのように考えれば良いかとか,何の役に立つのかとか,どこが面白いのかとか,言葉の定義の意味とか.... でお願いします.

噛み合わない議論

 議論の噛み合わない人の特徴として

 

1.必要条件と十分条件を取り違えて(あるいは意図的に入れ替えて)相手の揚げ足をとる

 

2.仮定を飛ばして結論だけを相手に迫る

 

の2つが多く見受けられる.

 どちらも数学的,あるいは数学でなくとも論理的な思考の訓練の経験のある人ならすぐに間違いと気がつくのに,世の中ではまかり通ってしまうことがある.

  1.は最近,あるツイッター上のやり取り(議論)を見て改めて感じた事で,前から気になっていた事.2.は報道機関において,取材対象の発言を都合よく切り取って報道する場合によく見られる事象だと思う.もちろん発言を色々切り取って書き直せばいくらでも相手の印象を操作できる.

 インターネットのおかげで,各個人が報道された事柄について事実確認が(ある程度)できる時代になったのは,いいことだと思う.

 

 やっぱり世の中の大きな力に惑わされずに物事を判断するには,論理的な間違いを見抜く力は大事.そのためにも数学を勉強しましょう.

 

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ベクトルの話(続き)

 平面上の2つのベクトルの和は,図形的には矢印に矢印を継ぎ足すものとして表される.前の記事で,実数自身も絶対値を大きさ,符号を向きとするベクトルとみなせることを書いた.


http://life-with-mathematics.hatenablog.com/entry/2017/03/28/151524


 実数の足し算,例えば 2 + 4 = 6 というのは,数直線上で考えると

 

「原点から右に2だけ進んだところから,さらに4進みなさい」

 

という意味である.これを言い換えると

 

「数直線上で,原点を始点,2を終点とする右向きの矢印(ベクトル!!)に,長さ4の右向きの矢印を継ぎ足しなさい」

 

という意味である.同様に 4 - 8 = - 4 というのは,4 + (-8) = -4 だから

 

「数直線上で,原点を始点,4を終点とする右向きの矢印(ベクトル!!)に,長さ8の左向きの矢印を継ぎ足しなさい」 

 

という意味である.

 実は,難しく考えなくても,中学校の「正の数と負の数」を学んだときから”数直線上でのベクトルの和や差”を扱ってきているのである.これを”和や差”の性質が保たれるように(この性質は保っていてほしいと思う性質を保つように)平面上や空間のベクトルに拡張したのが”ベクトルの和と差”である.

 教科書に載っているようにベクトルの定数倍,和,差を決めると,保っていてほしいと思う性質を保ったまま,数直線上で考えたベクトルの演算(=ふうつの実数の和と差)を平面上や空間上のベクトルに拡張できるのである.このあたりの詳細は,大学で学ぶことになる.

 

 

追記:

 

少し詳しく言うと,保っていてほしい”和や差”の性質というのは

 

 1.x + (y+z) = (x+y) +z 

 2.x + 0 = 0 + x = x 

 3.x + (-x) = (-x) + x = 0 

 4.x + y = y + x   

 5.a(x +y) = ax = a y

 6.(a+b)x = ax = by

 7.a ( bx) = (ab) x 

 8.1 x = x

 

である.ここで,a,b は実数,x, y,z はベクトル,0 は大きさがゼロのベクトルを表す.

また,ax などは a と x の積を表す.

 

 

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「亭主関白」(やり直しと丸つけの話)

男:「おい!!飯!!」

男の妻「はい.」

男:「まずい!!作り直せ!!」

妻:「はい.わかりました(💢)」

 

 今時こんな会話の成立する家庭は無いと思うが,学校教育の世界では”やり直し”という名目で成り立っている.

 

 中学生や高校生,あるいは大学生になって,何かの目標(入試,資格試験,定期試験...)のために勉強している場合には,その目標を達成するためにできることを増やさなければならないから,間違えた問題をもう一度見直すこともできるが,これがまだ勉強の目的もアヤフヤな小学生,特に低学年の小学生にとってはとてつもなく苦痛なのではないかと思う.

 

 自分では「出来た」(この場合は全部正解という意味ではなく,やり終えたという意味の”出来た”)と思ってランドセルにしまおうとしたところにお母さんなりお父さんがやってきて,見せてみろと言われ,あそこが違う,ここはこうしたほうがいい,やり直せ,なぜできないんだ.... と言われたらとても勉強を好きになるとは思えなない.

 

 まるで,忙しいなかで家族の健康のことも考えながらメニューを考え,買い物に行き,夕食の準備をしたのに「まずいから作り直せ!!」と言われた気分ではないかと思う.もちろん,作った本人はまずいとも思っていないし,いつも通り作ったのに.....

 

  他の科目は(私はよく分からないから)ともかくとして,算数について言えば,まず宿題の間違いについては,間違えたところをどうするか(やり直しをさせるのか,別の宿題を出すのか)も含めて学校の先生に任せるべきだと思う.

 

 なぜこの記事を書いたかと言うと,最近親に丸つけとやり直しまで任せる小学校があると聞いたいて,それは違うと思ったから.

 

 算数はもちろん,科目(勉強)に関することついては学校の先生(プロ)の仕事のはずなのだから,丸つけもその後の指導も学校の先生の仕事のはずである.

 むしろ,家庭に任せるなら,挨拶とか礼儀とかの方だろう.

 

 間違えた問題をやり直させるのが難しいからといって,できないままでも困る.ではどうするかというと,私が小学生を教えていた時には,その子が間違いやすい傾向の問題を別に作って(別の計算ドリルでも問題集からでも良いから写してきて)

 

「すごい!!こんなに丸がついてる!!よくできたね!! もしまだできそうならこっちもやってみる??」

 

などとおだててやらせていた.

 一つも丸がつかない子は教えたことがないからその場合ままた違うやり方を考えないとね...

 

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