「これができたら100万円」(ベクトルの話)
司会者:「さあ.今日も始まりましたこれができたら100万円.今日の挑戦者は会社員の A さんです.」
A さん :「頑張ります!!」
司会者:「それでは今日のチャレンジを発表します.それはこちら:」
”今あなたの足元にある丸印からちょうど 10km の地点に賞金100万円の入った箱が隠されています.それを見つけてください.ただし,制限時間は 2 時間で,自力での歩行と走行以外の移動手段(自転車,バイク,自動車など)は使ってはいけません”
司会者:「用意はいいですか??」
A さん:「はい」
司会者:「それでは.スタート!!」
このチャレンジは成功するだろうか.運が良ければ A さんは100万円を手に入れるかもしれないし,そうでないかもしれない.なぜ「確実に手に入れられないか」というと,10km の地点ということは,候補となる地点は半径 10km の円の円周上の点だから(円周率の近似値を 3.14 として)
10 × 2 × 3.14 = 62.8 (km)
の距離をくまなく探さなければならい.Wikipeda によれば男子マラソンの世界記録は2時間2分57秒だから,「箱を探す」時間を考慮に入れて ”確実に” 見つけることはできないだろう.
これが ”チャレンジ” として成立する理由は,100万円の隠されている場所までの「距離」は示されているが「方向」が示されていないからである.
物事を伝えるとき,特に,どこに何があるかを伝えるのに方向は大事である.
例えば,道を聞かれて「その店なら大体ここから100メートルくらいですよ」とだけ答える人はまずいない.大まかな距離(かかる時間)も大事だが,方角や道順といった情報はこの場合もっと大事である.
「大きさ(この記事の例えでは”距離”)」と「向き(方角,方向)」が合わさって初めて情報として意味を持つものはたくさんあって,我々は日常的かつ無意識にそのような情報のやり取りをしている.
数学では,それをベクトルという.
「大きさと向きをもつ量をベクトルという」
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「大きさ」と「向き」はそれぞれ別の情報で,状況に応じてどちらが大事かは変わるよね.特に
”場所” = "座標"
の情報を伝えるときは,
"大きさ" と "方向"
が両方とも大事だよね.だから両方の情報を表す記号をつくらないと....
えーっと... とりあえず日常的に方向を示す時は矢印("→”)を使ってるから,文字の上に上に矢印を付けて
”この記号は「大きさ」だけじゃなくて,「方向」も情報として持ってますよ”
ってことにしよう!!
(数学者:いちいち矢印かくのめんどくさい.... 今議論してることの内容
がちゃんとわかってれば伝わるからさ,なくてもいいよね....)
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多分こんな感じで今の記号になったんだと思う(妄想)...
追記:
数直線の上だと,絶対値が原点からの距離(=”大きさ”)で,符号 ”+ , -” が向きを決めている.つまり,実数 x が一つ与えられたとき, x は,その絶対値 |x| を "大きさ",符号を ”向き” とするベクトルと考えることができる.
絶対値だけだと
「その店ならこの1本道をまっすぐ行って100メートルくらいですよ」
と言われてどっちに進むかを知らされていない状態である.やはりこの場合も,右か左か(あるいは前か後ろか)という情報が加わって初めて(道案内としての)意味を持つ;
「その店ならこの道を右にまっすぐ行って100メートルくらいのところですよ」という具合である.
符号は数直線上で原点を起点にした”左右”という”向き”の情報である.こうして考えると,上に書いた通り,実数をベクトルとして考えるこができるのである.
平面座標の場合,極座標表示: 「x = r cos θ, y = r sin θ」を考えると r が原点からの距離,θ が方向を表しているというのがよく分かる.だから,r だけの情報では「その店はここから 100メートルぐらいですよ」とだけ言われているのと同じである.θ の情報を加えて初めて距離(大きさ)と方向(向き)が決まる.
r と θ の両方が決まるためには x と y の両方が決まっていないといけない.逆に,r と θ が決まれば x と y が決まる.これは平面上の1点 (a,b) は 原点を始点,点 (a,b) を終点とするベクトルとみなせることを意味する.
すなわち,実数 a と b が決まれば,平面上の点 (a,b) までの
「原点からの距離」=「大きさ(長さ)」= r
と
「偏角」=「方向(向き)」= θ
が定まるから,(a,b) という表記を
「大きさ」と「向き」を持つ量 = 「ベクトル」
の表し方の一つと考えることができる.ベクトルの成分表示の記法が座標の表示 (a,b) と同じ記法であるのはこのような事情による(のだと思う).