「想像と現実の間で」(役に立つ数学はどのようにして生まれるのか - 複素数の話 - )

 

 あなたは

 

 子供のころ,有名になった時のためにサインを書く練習をしたことはあるだろうか

 ヒーローインタビューで何を答えるか想像したことはあるだろうか

 宝くじで1等が当たったらに何に使おうか考えたことがあるだろうか

 

 いずれも実際にそうなるかはわからないし,現実のものになるとしてもそれは同じような想像をしている沢山の人の中のごく少数だろう.

 

 しかし,もしサインの練習をしている子供が,大リーグで誰よりも沢山ホームランを打つという想像を実現すれば,多くの人に勇気を与えることになるかもしれないし,宝くじが当たったら親を亡くした子供たちのために基金を設立したいと想像している人が,現実に宝くじに当たったら多くの子供達が助かるだろう.

 

 

数学の研究の成果というのは,

 

  現実にはいったいいつ,何のために役に立つのかわからないこと

 

のオンパレードである.その一方で,”いったいいつ,何のために役に立つのかわからないこと” の幾つかは,あるときからこんなことにも役に立つ,あんなことにも役に立つとどんどんわかってきて,ついには「この理論は大事だから是非若いうちに学習するべきだ」となって教科書に掲載される.

 

 まるで,将来に備えてサインの練習をしている沢山の子供達の中から,世界を魅了するスーパーヒーローが誕生するかのごとくである.

 

 虚数複素数もそうした ”スーパーヒーロー” である.”スーパーヒーロー” であるがゆえに,ちょっととっつきにくかったり,癖があったりするかもしれないが,根気よく付き合っていればきっと仲良くなれる.

 

 歴史的な始まりは3次方程式の解の公式において,”2回掛け算して負の数になる数” をどうしても考えなければならないということが発表されたことである(カルダノの公式).その後,いろいろと発展を遂げて ”複素数はいろいろと応用もあってすごく大事だ” ということがわかり,高校の教科書に掲載されている.

 

 虚数は英語で

 

 Imaginary number = 想像上の数 

 

という.虚数の実数倍を純虚数という.

 

複素数の意味はもともと

 

 ”2つの異なる単位を持つ数の組み合わせ”

 

という意味のようである.今日に至っては,複素数といえば

 

 ”実数” と ”純虚数” 

 

の組み合わせのことをいうことになっている.

 

 他にも数学の世界では,”2つの平行線は交わらない” ということが成り立たない世界での幾何学とか,複素数をさらに拡張した”4元数” といったものまである.

 いずれも

 

現実にはいったいいつ,何のために役に立つのかわからないこと

 

であったが,今となっては物理的に重要であることがわかったり,世の中の科学技術を支える上で役に立っていたりする(らしい).

 ちなみに,ゼロ ”0” や ”負の数” といったものも発見された当初は

 

”現実にはいったいいつ,何のために役に立つのかわからないこと”

 

であったようである.

 

 だから,”役に立つ研究” というのは,”結果的に役に立つと後からわかった研究成果” のことであって,”役に立つことが確約されていた研究” ではない.

 したがって ”役に立つことが確約されている研究をせよ” といわれてもそれはなかなか難しい(これはただの愚痴ですね.... ).

 

 

追記1:

 

 複素数が実際にどのように役に立っているかについては沢山の本が出版されているし,インターネット上にも沢山の記事がある.代表的なものとしては,三角関数との間に成り立つオイラーの公式

 

 e^{i x} = cos x + i sin x ,  ( i^2 =  -1)

 

である.この関係が重要な理由を簡単に述べる.

 三角関数というのは波の動き方や伝わり方を表現する上で重要な関数である.そして一番身近な ”波” は ”音” である.

 あなたが,今もしイヤホンで音楽を聴きながらこのブログを読んでいるなら,その音源をコンピュータで処理するプロセスでこの三角関数が使われている.

 そして,その音楽の音のような複雑な音の組み合わせを表現するには,”沢山の” 波の形が違う三角関数を使う必要がある(フーリエ級数フーリエ変換).

 そのとき,sin と cos の足し算を e^{ix} のようにいっぺんに表すことができると色々と便利なのである(もちろん複素数を使わずに,sin, cos を使って処理している場合もある). 興味のある方は ”フーリエ変換” や ”音楽” などのキーワードで調べてみてほしい.

 

追記2:

 もちろん”数学”としての研究成果が後から役に立つことがわかるだけでなくて,数学以外の分野での問題を解決するために新しい数学がくつられて,それが発展してさらに役に立つものになって.... という場合もある.ちょっと難しい話だが,ディラックデルタ関数に対するシュワルツの超関数や佐藤超関数,確率過程における伊藤積分や伊藤の公式などは,応用上の問題から数学的に発展した代表的な例であろう.

 

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